『BLOOD ALONE』 高野真之

BLOOD ALONE 1 (電撃コミックス)
★★★☆☆
売れない作家の青年とちょっぴりワガママな美少女。擬似親子関係にある二人の穏やかな日常。この漫画の師匠、源流天一郎、御先祖様万々歳はおそらく榛野なな恵Papa told me』であろうと思います。しかしここには『Papa told me』の主義主張、「マイノリティ賛歌」や「世間様の同調圧力にドロップキック」といった要素は全く見当たりません。代わりにあるのは「美少女と優雅に暮らしTai!」という強烈な欲望です。「優雅」に暮らすためには少女だけでなく、作者の分身にして読者の投影対象である青年も美しくあらねばなりません。そのため主人公はインテリのイケメンにして格闘技(合気道の・ようなもの)に練達した完璧超人として設定されています。また二人が暮らす街は現代の日本ですが、我々が普段目にする吉野家、ナイタイ、ハマショーが歌う「さびれた映画館とバーが5、6軒」といったショッパい光景は綺麗さっぱり除去されています。同じ『Papa told me』の孫であっても、『よつばと』はとーちゃんのパンツ姿に代表されるようにまだしも生活感がありますが、『BLOOD ALONE』はそんなもんお呼びでない、またぐなよという風情です。
汗水たらさず、生まれながらの王侯貴族として優雅に暮らしたい。無菌化された完全な世界で美少女と戯れたい。こういったオタクの欲望の代弁者にしてトップランナーと言えば、他にも大槍葦人さんが挙げられると思います。大槍さんは画集『LITTLE WORLD』(ASIN:B000VWL10A)の後書きにて、斯様に述べています。

僕は完全なものに惹かれる。先にも言ったが、完全であるというコトは優れているというコトとはまったく別の次元のモノだ。純粋な、足し算ではなく引き算で到達するたぐいのモノなのだ。
それはこの世界では限定的にしか存在しないし、出来ない。
そういうわけで、LITTLE WORLDというタイトルは、そういった僕が心癒される世界、箱庭のような調和のとれた世界。自分自身が求め、描きたい世界を象徴する言葉としてつけた。思えば、僕はGARDENだとか、ROOMだとか、LITTLEだとかの言葉をよく使うが、全てその感覚はここに帰結しているのかもしれない。

不良番長』やピクルなど、猥雑で暴力的なフィクションに興奮を覚える部類の人からすれば、上記の妄念は理解不能なものと映ることでしょう。しかしわたくしには理解できる…できるのだ…それどころが「分かる、分かるぜええええ」と共感さえ抱いてしまうのです。いや僕様ちゃんとて「弾ぁまだ残っとるがよ」とか「ベリーベリーオコッタ」とか、そういうマッチョな物語に魅力を感じることも勿論あります。しかし一方で高野先生や大槍さんが描く極限まで理想化された(自分にとって都合の良い)世界、少女にハッスルしてしまうこともまた事実なのです。褒められたものではないと思っている…みっともないことも分かっている…でも止められないンだ…"疼く"んだよゥ。