『スカイ・クロラ』

スカイ・クロラ コレクターズ・エディション (生産限定) [Blu-ray]
★★☆☆☆
以下、ネタバレ。
 過去作『イノセンス』を「更年期障害だった」と否定し、今回は「オヤジがボソボソ喋る映画ではない」と語っていた押井監督。しかし蓋を開けてみれば毎度の押井節。オヤジの代わりに若者がボソボソと観念的な台詞の応酬。チャレンジしたという濡れ場も描写は寸止めで、ピンパイのビデオみたいにアワビやバナナは出てきません。まあそれは構いません。そこを捕まえてどーこーアナコンダバイス言おうとは思いません。
 終盤、栗山千明さんが突如ネタバレを語り出し、また「オチ」によってその言葉が真実であったことが確定してしまいます。だからこの作品には解釈の余地は残されていません。ブンゲイ映画みたいな身振りをしていた割に、こんなジャンル映画然とした決着をつけるのかと意外には思いますが、これもまあ問題とは思いません。
 問題はマグロです。マグロは戦友が死のうが娼館に行こうが基本的に無感動のやらない夫です。そんなマグロがラスト間際、菊地なにがしに「君は生きろ」と語り、最強の敵ティーチャーに挑んで行きます。これが今回の肝ではあるのでしょう。「覚悟と意志があれば、人生は情熱の対象になる」という監督の言葉が集約されているのだろうなーとは思います。
 しかしこんなマグロに「ループする日常に抗え、困難に挑め」と棒読みで言われて「その通りや!ワイもやったるでぇ!」と思える人間がどれ程いるのでしょうか。いやこれは、主体性のなかったマグロがやるからこそ意義があるのでしょうが。それでもマグロより能動的に生きている大半の人からすれば、このようなメッセージは「何をいまさら」あるいは「しゃらくせえ」と言われてお終いという気が致します。
 では現役のマグロ君には有効な問い掛けなのでしょうか。他の方は分かりませんが、少なくともわたくしは感じ入るものはありませんでした。同時代のアニメという枠内で言っても、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『トップをねらえ2!』あるいは『時をかける少女』の方がもっとずっと軽やかに同様のテーゼを扱っていた、そしてベタな物語の快楽も失っていなかったと思ってしまいました。
 なんだか不満ばかりになってしまいましたが、今でも押井監督のファンのつもりです。今回もヒットして欲しいとは思います。だからみんな映画館に行こうぜ!いや行って下さい。