『グミ・チョコレート・パイン』

グミ・チョコレート・パイン グミ編 (角川文庫)
★★★★☆
その昔、大橋賢三はリビドーと自意識をパンパンに膨らませた少年だった。学校では存在感の薄い、透明人間として扱われながらも、内心では「オレは特別な人間なんだ!選ばれしサイオニクス戦士なんだ!いつかそれを証明してやる!」と固く誓っていた。しかし月日は流れ、オッサンと呼ばれる年齢になった今、賢三は何を成し遂げたわけでもなく、益体もないさらりまんになっていた。挙句に転勤先をクビになり、実家へ戻ってきた。そんな彼にかつて憧れだったクラスメイト、山口美甘子からの手紙が届くのだが…。
高校時代、文芸坐で出会った賢三と美甘子は『トップガン』や赤川次郎に興じる級友たちを馬鹿にして、カーペンターやブラッドベリの話題で意気投合します。*1なんとも痛々しくも微笑ましい場面です。しかしわたくしはこれを笑えません。たかだか趣味、嗜好程度で「おどれらとわしは違うんじゃい」と吠え噛み付きたい。オッサンと呼ばれる年齢になった今も、その種の欲望は自分の内側に明確に存在するからです。例えば賢三が大学ノートに綴る「映画感想文集」と、お前さんのはてなダイアリーはどう違うのかと言われたら、まーぶっちゃけ変わりません。同じです。ああ同じですよ!(逆ギレ)
そんないい年こいて未だにティターンズ気分が抜け切らない人間には堪らなく恥ずかしく、また身に染みる映画です。小説に比べてギャグ二割増という感じで、深刻になりそうな展開は「笑い」によって回避されるのですが、本当に大切な箇所は逃げることなく映像化されています。踏み切り前での賢三と美甘子の会話など、物凄く野暮ったいしオセンチなのですが、いやだからこそわたくし目から汗が出ましたわ。

*1:この種の「同好の士がいない恍惚と不安」って現代では希薄なんでしょうか。本当にハードコアな性癖ならともかく、ちょっとマニアックな映画や作家のファンなんて、今やインターネットがあればゴロリゴロリと見つかるわけで。だから今時のナウでヤングなビートキッズがこれ見ても痒くも痛くもなくむしろ中二病呼ばわりして終わりなのかしら。あーそもそも若い人は見ないから気にしなくていいですか。そうですか。