以下、最終回含めてネタバレあり。
ジークアクスについて。振り返って思えば最初に大きなかけ違いがありました。自分はIF世界線の架空戦史とか赤いガンダムとか、おっさんオタへの目眩しで、本筋はマチュとニャーンという若い世代の物語で、姉妹的連帯が描かれるのではないか、そんな予感を持っていました。つまりハードストーリーに見せかけたソフトストーリーではないか、という推測と願望です。
ユニコーンや水星の魔女がある部分では試みて取りこぼしてしまったもの、それをこのスタジオカラー、鶴巻x榎戸という座組であれば見事に乗りこなしてみせるのでは、という(勝手な)期待もありました。それは「戦闘機の型番違いを事細かに記述して、エースパイロットが無双する戦記ものではイカンのです」という富野御大の根幹にある思想と信条を踏まえての作風とも思っていました。
ところが蓋を開けてみると、別進化したゲルググとか、黒い三連星やらバスク・オムなんて過去作キャラのチラ見せ無駄絡みに時間を使って、肝心のメインキャラの心情は大して描かれもしない。せいぜいシュウちゃんとかいうフワフワした妖精みたいな男性へ惚れた腫れたしているだけ。このシュウちゃんとやらは後半に至って、本当に幻影で内実がないことが判明し、更なる脱力を誘います。
そんな状態で終盤、二人は恣意的な殺し合いにまで突入するのですが、別に思想的な対立があるわけでもなく、脚本の都合で争っているだけなので、なんの感興も湧きやしません。デビューしたてのヤングライオン、あるいは前座の女子レスラー同士がアングルもなく「死ねー」「お前が死ねー」とドロップキック合戦してるだけみたいな試合。猪木だったら「お前たちはキャンバスに絵を描いたことがない」と説教しているところです。
いや、おそらくこれでも作り手は姉妹的連帯を描いているつもりなのでしょう。マチュによる「なろう、明日なろう、踏まれて強くなる麦になれ!」「明日のわたしはもっと可愛い」「女子三日あわざれば刮目して大局を見よ」みたいな直截的な台詞もあります。あるいはリコリコ、ベイビーわるきゅーれよろしく女子二人だけで(幻影のシュウちゃんやシャアを伴わず)約束の海に辿り着きます。ただ悪い大人に誘導されたとは言え、大量殺人の罪も不問のまま、こんな弛緩した呑気な顛末で良かったねーとは到底思えず、カミーユばりに「お前ら待てよ、人が死んだんだぞ……いっぱい人が死んだんだぞ!」と言いたくもなります。
まーそんなお話を差し置いてもこのアニメ、終盤になればなるほど演出が機能せず、なんでもかんでも台詞で説明するようになっていきます。ホワイトベースもどきのクルーはロンドベルみたいな自由度ある本来なら面白そうな設定なのですが、特に何をするわけでもなく、試合実況と解説に終始します。「シンクロ率400%です!」「このままでは搭乗員がヒトでなくなってしまう!」とか、雰囲気だけで中身のないやつ。あれです、端的に言うと赤木博士が太鼓をドンドコ叩くやつです。
(赤木博士が太鼓をドンドコとは、劇場版のエバー破にて、赤木博士がなんや大事っぽい、しかし内容のない説明台詞を延々言う場面のおかしみを表現したミームのこと、以下を参照)
あとキラキラ空間で時が止まりキャラクター同士が話し合う、ここ一番の大技を乱発するので、アクションが連続せず停滞していく羽目に陥ります。繰り返しますけどカラー、鶴巻x榎戸という現代最高峰とも言える陣営で、なんでこんなヘッタクソなことになっているのか……。今回最大の謎ではあります。いや全ては1クール故の時間的制約があり、致し方ないことなのかもしれない……プラモも売らないといけないし。なんて思う必要はねえんですよ、何故なら大人の事情なんて知ったことじゃねえから。
敢えて良かったところをあげると、何はともあれデザインでしょうか。竹さんの丸っこくて可愛い、およそ宇宙世紀にこれまで登場しえなかったキャラクター。そして山下いくとさんによるマッシブで可動範囲の広いメカ。この視覚的快楽あればこそ毎週見ることが出来た、という気持ちがあります。
薄っぺらい世相語りすると、現代SNSってエモ、共感こそが大切で、あんまりブツクサ言うと冷や水かけんなよと嫌われる可能性あり。まー楽しかったからいーじゃない、Funあってこそよ、みたいなユルフワ思想があると思っていて、自分も正直この数年そんなモードでやってきたところあります。でもねえ、今回よい勉強になった気持ちあり、やはりダメなものはダメ、うまいもんはうまいと言っておきたいです。単純に自分の精神衛生上よくない。怨念に取り憑かれて作品ディスばかりに夢中になるのも、それはそれで不健全と思いますけどね。現場からは以上です、編集長。
以下は劇場公開~放映中のまとまりのない呟き。最初はマジメに書いていたのに、だんだんテンションが下がって雑になっていくのが分かりますねhahaha。
- 鶴巻x榎戸作品の特徴と自分が勝手に思うのは、現実のメカニズムよりキャラクターの心情、思春期の性欲、エゴ、葛藤が優先され、世界やオブジェクトが変容するところ。例えば『トップをねらえ2』においては宇宙怪獣よりアガリ問題の方が重要で若き頃の全能感はやがて費える、その時にどう生きるか、というテーマが据えられている。ジークエクスもそういう文脈に沿う作品じゃーないかなー。まだこの3話?ぐらいまで見ただけで判断するのは性急に過ぎるのかもしれんけど。
- 森川ジョージ先生が現代と変わらぬスマホや改札あるのに違和感、という旨を書いていたけれど、先生の感覚はおかしくない、なにも怯む必要はないですよ!しかし一方で、『はじめの一歩』が固定化された時空のまま巻を重ね、ガラケー使っていたのがいつの間にかスマホになっている問題は、先生の中でどう整理されているんですか……。
- 戻ってジークアクス、劇中の落としただけで割れるスマホやUSBメモリ、HDDの・ようなもの、Wikipediaが登場する度に自分の中のテンションは少しづつ下がっていく感あり。あーいや、分かってますよ僕だって馬鹿じゃない、つもり。賢い作り手が集まってこのようなことを敢えてしているのだ。「これは現代に生きるきみたちと変わらぬ彼、彼女たちの物語なのですよ」というシグナルなのでしょう、たぶん。でも本音言えば、そんなメタ的メッセージよりも舞台をきちんと作り込んで欲しいと思うのです。
- あのー『マクロスF』でランカちゃんが落としても平気なブヨブヨした携帯ガジェット使ってて、ああいうのを真面目に考える方が創作態度として立派だと思うンだよ……。
- 富野御大はどうなのかと言うと、やれオーラ力だなんだとオカルト多々あるけれど、スペースコロニーやMSは存在しない、って態度を取ったことはないと思うんですよ。『Gレコ』のキャピタルタワーとか、含意の前にあの世界にはある、信じろと言っているわけで。
- これが下衆な突っ込みで、『トップをねらえ2』みたいにあのデザインには意味があった、と引っ繰り返る仕掛けがあったらそれはもうひれ伏すしかない。そうなったら良いなとも思う、ちょっと覚悟はしておけ。
- 劇場で見た時にブツクサ書いたものの、TV放映後は毎週見ておきながらネガティブな感情を垂れ流すのもあれかと思い、特に触れてこなかったけれど最近のジークアクスさん酷過ぎませんか……。
- なんやワカランでかい装置でてきて、全く仕組も不明なのに、これを止めるとか止めないとかが焦点となり、世界を革命する力を!みたいなこと言い合っててボカーン。ついてゆけぬ人だ……。知ってる、これエバー劇場版でもやってたやつ。やり抜くとか抜かないとか、ヤリヤリクリクリとか初めに言い出したのは誰なのかしら、かしらかしらご存じかしら。
- 自分の感覚からすると、これモックやないかと。綺麗なインタフェースだけ用意してお客さんにプレゼンして、中身は実装されてないやんけと。虚しい……。
- あのー、色々思うところあったけれど、ユニコーンも水星の魔女も真面目にやってましたよ。ガンダムに限らず、MyGoだってぼっちだってマジメにやってるよ。それはスコープは小さいかもしれないけれど、十分立派だよ、みんな歴史の教科書に載るぐらい立派だよ。
- 水星の魔女は少なくとも旧シリーズにない新規の話をしよう、という意思はあったと思う。それが面白かったかは別としても。
- あのーアオイホノオ史観と言うか、庵野秀明を常識のレールから逸脱した天才として受容する向きあるでしょう。チーム全員が悩んでいる問題を、たった一人の天才プログラマが数行のコードで解決してみせる、みたいなやつ。あーいや、わたくしもそういう天才ヒロイズムへの憧れがゼロではない、今でもある。でもなんか、凡人のオッサンとして年重ねてくると、華麗さはないけれど、左ジャブとボディブローで判定試合を拾うよな、地味な選手も立派だと思うんだよ。マジメにやるのは何も悪いことじゃないよ。
- この現代になって、シャアさんの解像度が悲劇を背負ったヒーローってのもなんなの……。不思議パワーで赤いあのひとのルックに変身とか……。いや聡明な作り手が揃ってやるのだからと期待もしていただけに……。最終回まで見たら評価変わる、ってことはもうないと思う。
- しかしよく分からない……。あの時代に逆シャア同人作るぐらいには批評精神あった作り手たちが、現代になって今更カッコ良さげな王子様風のシャア出してくるのとかどういうギャグなんですか……。
- ララァの刻が見える間際の夢なのでは、という説を読み、ハーなるほど、だからSFガジェットがいい加減なのも、Zや逆シャアのだらしなさとは無縁の王子様なのも得心がいきますね、これは見事!ララァさんの中ではカッコいいシャアのままなんですね、うーん切なさ炸裂……ってなるかあ?
- そんなドンデン、書き手の都合やないか。いや勿論あらゆるフィクションは作り手の恣意なのだけれども。ここまで積み上げられた話に意味、面白さがあればこそ果しなき流れの果にという感興が湧くのであって。現状からそんな展開されたらますます虚しくないすか……。
- 仮定を重ねて突っ込むのは不毛なのは承知だけれども、であれば更にマチュとニャーンの衝突とか苦しみとか(現状それもビリーバリティ皆無だけど)もうどうでもいいやになってきません?これでグレートリセットが起きて大量殺人もなかったことにして、仲良く部屋でまったりマラカス振って良かったヨカッタめでたしとは思えんやろ……。
- あのーウテナの劇場版のツイストあったじゃないですか、冬芽が実は……ってやつ。あれは見事だったと思うんですよ。他にもTV版の幹と梢の錯誤、ピアノの連弾のことを互いに間違えて記憶しているとか。ああいうのは良い詐術だと思っているんですよ。今回はそんなレベルのものじゃねえですよ……。
- 思えば『フリクリ』とか当時は新しいアニメで、SFガジェットは飾りで郊外男子の思春期性欲モヤモヤを描くお話だった。しかし現代は『スキップとローファー』とか普通にアフタヌーンで連載されてる時代だから。今期で言えば『前橋ウィッチーズ』とかあるから……。普通に乗り越えられたということでは。
- あのー『ガンダムSEED』って最初の方は割とマジメにキラxアスで友だち同士が殺し合うなんて!って劇をやっていたでしょう。あんなに一緒だったのに、夕暮れはもう違う色という。今回のマチュvsニャーンよりは余程ちゃんとやっている。
- いや勿論改めて言うまでもなく、ザレムの鉄クズ町でブツクサ言うてる自分たちと比したら鶴巻先生も榎戸先生も天上界のスーパーエリート。そんなクレバーで最新MMAを習得した、選ばれし男の中の男たちが集って、SEEDの後塵を拝すことになるのだから、創作って面白いとも言えますね。
- 職場で自分より遥かに年上のおっさん二人がジークアクスの話をしていてビビってたじろぎました。「ガンダム出てきたよ!」とか嬉しそうに語っていて。そんな風に、おっさんから若年層までIPとしての初代ガンダムを再度注目させたのだから庵野先生、スタジオカラー凄い、さすがですおにいさま、みたいな意見も読んで。それは確かにその通りなのかもしれませんが、知るかよ!俺と作品の関係以外どうでもええわ!とも思いました。
- 最終回、予想が当たっていた箇所も外れていた箇所もあり。だからどうしたという気分ですが……。
- リセットはなく、モブはいっぱい死んだけど、マチュとニャーンが仲直りしたから良かったねーって、そうはならんやろう……。
- Zのカミーユはよくキレるエキセントリック少年に見えるんだけど、終盤でこう言っています。「生命は力なんだ。生命は、この宇宙を支えているものなんだ!それを、それを……こうも簡単に失っていくのは、それは、それは、酷いことなんだよ!」
- めちゃくちゃマトモじゃありません?プラモデルを売るために次々にモビルスーツが投入され、毎回のように人が死ぬロボットアニメの中で、だからこそ「命は重いんだよ!」って抵抗、当たり前のことをシャウトできるカミーユこそ本来の意味でニュータイプだと思うの(そういう感受性あるから、最後にぶっ壊れてしまうのですが)
- 前半でシュウちゃんがゲルググ人妻をあっさり殺すでしょう。それ見たマチュが目をキラッキランラン(byプリキュア)させて「シュウちゃんは凄い!これぐらい何もかも捨てて打ち込まないとUFCのリングにはあがれないんだ!」とか憧れるの。
- これは当然、意図的に「間違えている」描写であって、明らかに幼い誤認なのだけれど、あくまで溜めで、成長変化してゆくのだと、そんな風に思っていた時がわたしにもありました……。しかし実際には特に言及ないまま、マチュは最後までシュウちゃんシュウちゃん言うて好き!キス!とかしてんの。
- いや、教条的な成長譚ではないことに榎戸節があるんですよ、と言うなら、代わりに何が描かれたのかと。SFガジェットが見た目だけで中身がないのはこの際良いとして(本当は良くない)ソフトストーリーとしても失敗している。
- そんなマチュを「立ち止まらない、無数の選択肢の中から可能性をつかむ新時代に相応しい主人公!」とか誉めそやしている言説読んでポカーン。いやそんな決断主義持ち上げるのおかしいだろ、むしろ逆で立ち止まってよく考えるべきなんちゃいますの……。
- 何度も言うけど人死んでるねんで。いや自分だって劇中でバンバン人殺すキャラクター、例えばヤザンさんは最高だなーとか言いますよ。ただそれは「ヤザンさん」として受容しているわけであって……。
- マチュの言う「よくわかんないけど、なんか分かった!」ってあれですよ、ポプテピピックの「完全に理解した」と変わらないから。
- dic.pixiv.net
うーん無限に言えるぜジークアクスの悪口(やめましょう)