『ポップ1280』 ジム・トンプスン

ポップ1280
★★★★☆
以下、ネタバレ。
人口1280人の小さな田舎町、ポッツヴィル。この町の保安官ニックはおよそ「法の番人」とは程遠い人物。給料に見合う仕事は何一つせず、むしろそんな人間であるからこそ保安官に選ばれたのだと嘯く。ところがポッツヴィルの住民はニックに輪をかけて出鱈目な、激安人間揃い。例えばニックがトムを殺し、更に死体を発見したアンクル・ジョンまで殺害する件。ニックは二つの死体の辻褄をどう合わせようと(それなりに)悩むのですが、町民の反応は恐ろしくイーカゲン。

ほとんど全員が、ことのいきさつは明白で、事件は解決済みだと言った。つまり、アンクル・ジョンがトムを殺し、次にトムが、死んではいたけれど、アンクル・ジョンを殺したのだと。あるいは、その逆。

すべからくこんな調子です。とにかくピンチに陥ったニックがその場凌ぎの適当な話をデッチあげると、周囲の人物は突っ込むどころか容易く受け入れ拡大解釈していく始末。
解説には「アメリカ社会への風刺」やら「キリスト教的道徳観念へのアンチテーゼ」とあるのですが、そうした寓意以前に予測不能な展開と黒い笑いに満ちた小説として、たいへん面白うございました。