『ミリオンダラー・ベイビー』

ミリオンダラー・ベイビー 3-Disc アワード・エディション [DVD]
★★☆☆☆
以下、ネタバレ。
「暗転」後のヒラリー・スワンクの姿を目にした時、暗澹たる気分になると同時に仄暗い興奮を覚えたことを告白せねばなりません。それは「これより先、どれほど陰惨な展開が待ち受けているのか」という物語レベルの期待であり、劇中の登場人物の苦痛を一方的に推し量る、つまりは(ワイドショーを楽しむ時のように)精神的暴力を振るう快感でもあります。当事者であるヒラリー・スワンクは勿論、彼女を導きともに歩んできたイーストウッド爺の葛藤たるや如何ばかりのものであろうか嗚呼!…とこのように。
けれども残念なことに、この映画の登場人物は誰も彼も現在の状況、自分の心境を逐一ペラペーラと語ってしまうのです。いけません。これではいけません。受け手であるわたくしが想像することで獲得する苦しみ、悦びが失われてしまうではありませんか。その際たるものが神様の立場からご丁寧にも解説を加えるモーガン・フリーマンの存在です。全く余計なお節介というものです。
例えば脚をアレするイベントなど、説明的な台詞を廃して映像で見せることに徹していれば、観客であるわたくしはもっと打ちのめされ、且つ陰鬱な快楽を感じることが出来たでしょう。更に遡って言えば、反則上等のボクサーにしろ拳闘に無理解な家族にしろ、単純な悪役ではなく欠点も美点も備えた「ありきたりの市井の人」として描いていれば、なおのこと以降の物語の残酷さに胸掻き毟られ、心躍ったことでしょう。どうにも肝心なところで気配りの足りない映画です。