『グミ・チョコレート・パイン パイン編』 大槻ケンヂ

グミ・チョコレート・パイン パイン編
★★★☆☆
勉強も運動も出来ない、学校では居場所がない、それでも「オレには奴等とは違う"何か"があるハズだ。いつかそれを証明しちゃる」とルサンチマンの塊な高校生、大橋賢三。彼は同じ鬱屈を抱える友人たちと「すげーハードなノイズバンド」の結成を決意する。しかし楽器は弾けない、詞も書けない、吐き出すものがない、そんな自分を突きつけられ「オレって"何か"どころか"何も"持ってないんじゃ…」と落ち込む羽目に。更に憧れの元同級生、今やアイドルとなった山口美甘子ニャンニャン写真がフライデーされ、絶望から沖雅也よろしく涅槃ダイヴを敢行。真性ダメ人間の明日はどっちだ?青春(=オナニー)大河小説、完結編。
以下、ネタバレ。
賢三が引き篭もりになる手前まではたいへん面白いのですが。後半どんどん説教臭くなり、しかも「百のフィクションより一の体験」という趣旨。これじゃあ「小僧、風俗へ行け」(by北方謙三)と何も変わらないじゃん!めっさオヤジ化してますよ。ただ、長い長ーいトンネルを抜けて、賢三が友人たちの初ライブに辿り着く大団円は(お約束とは言え)ジーンとくるものがありました。以下、その場面を抜粋。

少年が、タクオ、カワボン、山乃上をふり返った。
「タイミングで言うならハン・ソロみたいだろ」
少年が言った。三人がまだ声を出せずにいると、こう付け足した。
「でも、再会のシーンなら『スタートレック』の方が、俺はよかったと思うんだ」
「…映画版だろ。一作目だな」
カワボンが、少年に応えた。
「カークとMr.スポックが何年かぶりに会うんだよな」
タクオが、補足した。
「ち、地球人のカークは素直に喜ぶのに、スポックは感情を出さないバルカン人だから、すごく無愛想なんだ」
山乃上が、説明を加えた。
「そう、なんか全然地味な再会なんだよね」
「そうそう、さりげなくてさ」
「アレが逆によかったよな」
「あ、あのシーンは確かにいい。映画自体はクズだったけどな」
久しぶりに出会った少年たちは、いきなり映画版スタートレックの話を始めたのであった。