『虹色のトロツキー』#1〜8 安彦良和

虹色のトロツキー (1) (中公文庫―コミック版)
★★★★★
舞台は昭和13年満州。主人公のウムボルト君はモンゴル人と日本人の混血の少年。複雑な出生からアイデンとティティに悩み、理想を求め彷徨する…。そんな彼と一緒になって漫画もあっちへフラフラこっちへフラフラと迷走してゆき、お話としては破綻してると言ってもよいとは思います。中盤で明らかになるトロツキーの「正体」など「ひどすぎる…あんまりだ」と言いたくもなります。しかしそれを致命的な問題と感じさせない程この漫画は面白いのです。
石原莞爾を筆頭に、数多く登場する歴史上の人物たち。その誰もが単純な善玉でも悪玉でもなく、多面的な人間として描かれています。象徴的なのが8巻でのウムボルト君と辻権作の遣り取り。辻が言う「わしはうれしいぞ!おまえは延安か重慶に走る生徒だと思っておったのに」という台詞。それは日本帝国軍人としての範囲内での好意で、本当の意味での「五族協和」を求めるウムボルト君の真意には遠いものです。それでもウムボルト君は相手の発言を善意として受け取ります。そして「死ぬなよ」と言われて「お言葉忘れません」と返す。ここら辺の機微、情感は抜群です。BL好きの腐女子の皆さんにも胸を張ってお出しできると思いました。胸を張る方面を間違えていますか。そうですか。
物語はノモンハン事件で幕を閉じるのですが、本音を言えばもっともっと続きが読みたいですわーと。そして安彦先生はガンダムの連載も良いですが、こういう漫画もガリガリ描いて頂きたいと思いました。