『ノモンハン』 辻政信

ノモンハン (1950年)
★★★☆☆
虹色のトロツキー』からの流れで、ノモンハン事件関連の書籍を読んでいます。これは当時、関東軍参謀を務めていた辻政信の手記です。辻政信と言えばまー大変評判の悪い人で、陸大恩賜軍刀組のエリートで「作戦の神様」とも称されながら、実際は無謀な指揮で多くの将兵に犠牲を強いたと言われています。この本では反省の弁も稀にあるのですが、大半は「中央の参謀本部が悪かったんじゃい」という非難と、自己弁護の文章で占められています。例えばタムスク爆撃は以下のように語られます。

外蒙領内の敵基地を爆撃することは当然許さるべきである。任務達成上の戦術的手段として、軍司令官の権限に属するもので、別に大命を仰ぐべき筋合ではないと判断したのであった。寧ろ、中央部には黙って敢行し、偉大な戦果を収めてから、東京を喜ばせてやろうというような茶目気さえ手伝ったのである。

参謀本部に報告しないまま軍隊を動かし、国境侵犯して敵基地を爆撃、それを「茶目気」で済ませるのだからトンデモねえ話です。実際、この爆撃のせいでソ連との衝突は本格化し、後の惨事を招いたわけですから。更にまたこの後がド凄いのです。

未だ世界戦史に前例のない規模を以ってしかも東京の喜ばない侵攻作戦を敢行しようとする興奮に駆られないものはなかった。しかし、不思議なことに、この壮挙に飛行集団の参謀が、誰一人随行しない。(中略)出しゃばるようではあるが、ここは植田軍司令官の幕僚として行を共にするべきであると考え、爆撃編隊中に同乗することを願い出た。

前線に立つのを厭わないのは立派とも言えますが、このひとの場合は虚栄心故の行動ではなかろうかと。しかし困ったことにこれ「読み物」としては大層面白いんですよ。度々訪れるピンチを超人的活躍にて切り抜け、退屈する暇がありません。戦後、ベストセラー作家になったのも頷ける話と思いました。