『コレクター(上・下)』 ジョン・ファウルズ

コレクター (上) (白水Uブックス (60))
★★★☆☆
地味で冴えない事務員フレッドはフットボール賭博で大金を得たことから、心の奥底に抱えてきた密かな願望を実行に移す。それは一方的な憧憬の対象であった女学生のミランダを誘拐、監禁し二人きりの生活を営むことだった…。
以下、ネタバレ。
フレッドの一人称によって綴られる物語に中盤、ミランダによる手記が挿入される。1965年の映画版では省略された個所であり、作品全体に関わる決定的な差異である。この手記によりフレッド(と読者であるわたし)はミランダが示した幾許かの共感、思い遣りめいたものが、すべからく脱走のための意図的な演技であったことを知る。また彼女は文中でフレッドを激しく非難する。監禁という犯罪行為そのもの以上に、教養、知的好奇心、向上心が欠如した愚鈍な俗物であることを。芸術、世界に対する無関心、「より善く生きる」ことを知らぬ人間として。
ラスト、ミランダは病気による死によって監禁から解放される。フレッドは一度は自殺を決意するものの、手記を読んだことにより(「もっと自分の意のままになる女を選ぶべきだった」という悔恨から)再び"コレクター"の道を選択する。最後の最後まで二人の間に、ほんとうの意味での「対話」は行われない。フレッドはミランダの言葉を理解し得ない。救われない、孤独な魂。彼のことを思って少し泣いた。